第二十四話


暗い闇の中を進む巨大な人影。

青い装甲に包まれた一つ目の巨人――エヴァンゲリオン零号機。

両脇に並ぶ塩の柱。足元に流れるのは紅いLCLの川。

零号機と共にレイが歩くその場所は、NERV本部最下層――ターミナルドグマ。

そこは零号機と初号機、そしてレイの母たる第二使徒リリスの寝所であった。

零号機が手にしているのは二重螺旋を描く紅い二股の槍。ゲンドウと冬月が南極から持ち帰ったロンギヌスの槍である。

それをリリスに刺すことが、レイに与えられた仕事だった。

ゲンドウ自身はレイを呼びつけて命令するつもりだったものの、冬月に諭されてリツコ経由で“依頼”という形での指令だった。

レイはゲンドウからの指示と言うことで嫌悪感を示したものの、シンジに説得されて渋々ながら引き受けることにしたのだった。

今更な気はするが、一応ゲンドウの命令にレイが従って見せればカムフラージュにはなるだろうと言うのが一つ。

そして、シンジが十分な力をつけるまで、リリスの回復を遅らせることが一つ。

リリスという存在に人為を介することはできない。『前史』においてロンギヌスの槍を刺されたのなら、イレギュラーを防ぐために『今回』もそうすべきだ、というのがシンジやユウトたちが下した決断であった。

LCLの川をゆっくりと進む零号機の目の前に、白い巨人が現れる。

第二の使徒リリス。第三新東京市の地下にあるジオフロント――『黒き月』に眠る、この星に住まうすべての生命の母。

しかし、今は十字架に磔にされ、その顔には七つの目を意匠したゼーレの仮面が貼り付けられている。力を喪った肢体は醜く膨れ、下半身は無く、腰からは人間サイズの足が無数に生えている。

(リリス……私の起源……)

懐かしいような、心が騒ぐような、不思議な感覚をレイは感じた。

この感じは……そう、

(『悠久』を初めて見たときの感じ……)

思い出すのは病室。いまだ感情を表に出す術を知らなかったレイがシンジ以外の人物と初めての絆を結んだ時。

シンジに呼ばれて現れた少女の持つ杖から感じた不思議な感覚。今はそれが神剣同士の共鳴であることが理解できる。

そして、今感じるその感覚は『悠久』に感じたそれよりも、もっと強く心に響く。

恐らくは、この感覚こそが使徒がアダムへと還ろうとする感覚なのだろう。


――――――――?


気遣うような零号機の思念を感じる。

(大丈夫)

それに少しだけ笑って答えながら、右手にある槍の重みを意識する。

今からこれを彼女の胸へと突き立てなければならない。

レイはたとえようのない抵抗を感じた。

リリスは彼女の母であり、また彼女自身でもある。そのためらいは当然と言えた。

だが、

(これは必要なこと)

そう思い、手の中の槍を握りなおす。


――――――――


(うん、分かってる)

再びの零号機の呼びかけに、そう答えるとレイは槍を構えた。

「今は……ごめんなさい」

そう呟いて、レイはいまだに残る葛藤を振り切って、両手に持つ槍をリリスの胸へと突き立てた。




○○○




その日、第一発令所は喧騒に満ちていた。

と言っても、戦闘時のような緊迫したそれではない。

今行われているのは、NERVの誇るスーパーコンピュータMAGIの定期メンテナンスであった。


『エヴァ三体のアポトーシス作業はMAGIシステムの再開を待って予定通り行います』

『作業確認、470から670までを省略』

『発令所、承認』

『シュミレーションプラグは……』


様々な報告が乱れ飛ぶ発令所で、技術部師弟コンビは何時ものように作業を行っていた。

「さすがマヤ、早いわね」

「それはもう、先輩の直伝ですから」

リツコの言葉に嬉しそうに微笑むマヤ。

その間も休む事無く指はキーボードを叩き続けている。画面の中には途切れる事無く文字列が書き込まれ、スクロールしていく。

と、

「あ、ちょっと待って」

リツコはマヤの作業の手を止めさせる。

「そこはA-8の方が早いわ」

ちょっと貸して、と言いながら手元のキーボードにマヤの使っていた端末の制御を移すと、


カタカタカタ!


片手でありながら、先ほどマヤが打っていたときの倍するスピードで文字列を書き込んでいく。

「す、すごい……」

さすが先輩、とマヤは口の中だけで呟きつつもっと精進しようと思うのだった。

(母さんは今日も元気、か……)

一方、リツコは普段かけない眼鏡をつい、と指で押し上げながら手元の資料に目を落としつつ、口の中だけで呟いた。

その口元が自嘲気味に歪む。

(『前史』の私は何を考えていたのかしらね……)

何時もと何も変わらない三体のMAGI。それはリツコにとってある意味で母ナオコそのものだ。

ナオコが己の心を分けて創った三体のスーパーコンピュータ。

ちら、と自分の居る段の右下にある筐体を見下ろす。

MAGI-V Casper. 女としての赤木ナオコがインストールされているその筐を見つめる。

自分と同じく、あの男に惹かれてしまった愚かな女。

『前史』においては自分の母は一人の男を巡るライバルでもあったのだ。そんな彼女が何時もと変わらずそこにあることに、自分は耐え切れたのだろうか。

そんな埒も無い妄想のような思考を、リツコは頭を振って追い出した。

今はやるべきことがある。

(第十一使徒イロウル……相手にとって不足はないわ)

心の中で呟いたリツコは再び作業を開始した。




○○○




翌日。無事、MAGIの定期メンテナンスの終わった発令所はやや弛緩した雰囲気が流れていた。

「えーと、兵装ビルの補修案のデータはどこだったっけ……」

「何だこれ……実験棟の建設計画、20%近くも遅れてるじゃないか」

日向と青葉のオペレーター二人は遅れがちな事務仕事に精を出している。

「…………」

そんな二人とは対照的にマヤは無言で端末に向かい、一心にキーボードを叩いていた。

一つでも多くMAGIに防壁を張り、少しでも時間を稼ぐためプログラムを組んでいるのだ。

彼女は昨日のMAGIのメンテナンスが終わった後、最低限の休息をとってからずっと発令所で端末に向かっていた。

(私もみんなの役に立ちたい……!)

マヤの心にあるのはその一心。

いくらマヤが一般人とは比べるべくもないほどのプログラミングのスキルを持っていたとしても、それはリツコに及ぶものではない。

さらに言えば、これから彼女達が相手にするのは常識の通じないしとだ。

自分の組んだ防壁がどれほど役に立つかは分からない。

でも、とマヤは思う。

たとえ微々たるものであったとしても、自分にできる精一杯を。

それがシンジ達の戦いを見てきた彼女が学んだこと。

そして、マヤが端末に座ってから8つめの防壁を組み上げると同時、青葉の許にその報告が届いた。




○○○




「侵食?」

「どうかしたのか?」

訝しげな声を上げた青葉に日向が尋ねた。

「ん、ああ。また侵食らしい」

青葉は報告を読み上げる。

プリブノーボックスとセントラルドグマをつなぐシグマユニットのD-17ブロック、第87タンパク壁に染みのようなものが見つかった。温度や波長の変化から見て侵食である可能性が高い、と言うことだった。

「三日前に搬入されたパーツだとさ。無菌室の劣化はよくあるけど、三日でだめになるなんてな……気泡でも混ざってたのかね?」

「使徒戦が始まってからの工事だからな……仕方ないと言えば仕方ないか」

と、口にした後で少し日向は顔をしかめた。彼もまたシンジたちの影響か“仕方ない”という言葉を嫌っている。

それで済ませられるほど、自分達の仕事は甘えの許されるものではないことを自覚している。

「一応司令たちに報告しておくべきかな?」

「ん、あ、ああ。まぁ、あの人たちが何かしてくれるとは思わないけどな」

少し考え込んでいた日向に気付かない青葉の問いに、少しだけ慌てて答える。

「言うね、お前さんも……」

思いがけずこぼれた辛らつな言葉に、青葉は苦笑を返しつつ、義務だからな、と司令執務室へと報告を送った。




○○○




「侵食?」

(来た!)

青葉の呟きを聞いたマヤは、何気ない振りをしてリツコへと連絡を取る。

端末にワンコール。それだけで伝わる手筈だ。

リツコの到着を待ちながら、マヤはこれからやるべきことを頭の中でシュミレートする。

MAGIに侵入した使徒に対し逆ハッキングをかけ、自己進化=自滅プログラムを送り込む。

やることは『前史』と変わらない。

『前史』においてシンジ達はこの戦いに関わってはいない。

紅い世界で得たシンジの記憶によれば、この使徒を殲滅したのはリツコとマヤの二人。

さすがに細菌サイズの敵が相手では、いかに神剣使いと言えども有効な手は思いつかなかったため『前史』と同じ倒し方を選択することになったのだ。

もちろん、あらかじめ準備はしている。

完全ではないがどのようなプログラムを組んだのか、シンジはある程度覚えていたし、そこからもとのプログラムを復元することなど、MAGIとリツコには造作もないことだった。

さらにMAGIのセキュリティはバージョンアップを重ね『前史』のそれよりも20%は向上している。

多少の時間稼ぎにはなるはずである。

マヤはそこまで考えたところで一つ息をつくと、緊張で震えそうになる指先を必死でおさえ、自滅プログラムの確認を行うことにした。




○○○






青葉が報告してから数分で返信が返って来た。

「何だって?」

「“問題ない”だとさ」

さして興味のなさそうな日向に、苦笑交じりの青葉の返事。

実際に書いてあったのは“規定どおり対処せよ”という一文。

しかし、ゲンドウが言ったのは“問題ない”の一言であり、その文を書いたのが冬月であることは青葉にも容易に想像がついた。

「さて、それじゃ、と」

青葉が指示を出そうとしたその時、警報が鳴り響いた。

「何だ!?」

「どうした!?」

大声を出す日向と青葉。

それに答えるように報告が入る。


『シグマユニットに汚染警報発令』

『第87タンパク壁が劣化、発熱しています。第六パイプにも異常発生』

『タンパク壁の侵食部が増殖しています!』


「ポリソーム出動! レーザー急いで! 侵食を食い止めるのよ!!」

その声にオペレーターたちが振り向くと、そこには駆け込んできたリツコとユウト、シンジの姿があった。

「先輩!」

「どうしたの!? 早くなさい!!」

「「り、了解!」」

いつになく緊迫したリツコの声に、日向と青葉の二人は慌ててそう答える。

その間にもリツコはマヤの許へ走ると小声で会話を交わす。

「準備は?」

「できてます」

頷きあう二人。

だが、リツコはマヤの瞳の中にかすかな緊張を感じ取った。

少しだけ微笑みながら、リツコはマヤに語りかける。

「大丈夫よ、マヤ。私たちはできることをやったわ。自分の力を信じなさい」

「先輩……はい!」


『侵食部、レーザーをはじいています!』


「まさか!」

「A.T.フィールドか!?」

青葉と日向の驚愕を肯定するように、青葉の端末が鳴る。

「波長パターン青……使徒です!」

その報告に、発令所はかつてない驚愕に包まれた。




○○○




「使徒の侵入を許したのか!?」

「警報を止めろ。誤報だ。探知器のミスだ。政府と委員会にはそう伝えろ」

報告を受けたゲンドウと冬月が押っ取り刀で発令所へと駆けつけるなり、そう命令した。

そこからの流れは『前史』とほぼ同じだった。

ゲンドウの指示によるエヴァの射出、オゾンによる使徒への攻撃、オゾンへの使徒の適応、模擬体を乗っ取って電子回路を形成した使徒によるMAGIへのハッキング、MAGIのシンクロコードを落として時間稼ぎ。

違いは、リツコ達の対処が的確であったために、今回はMELCHIORにある程度の侵入を許しただけで被害はとどまっていたこと。

また、今回はユウトとシンジが発令所に居る。

ユウトやアセリアたちがNERVの施設内に入ることができるのは、シンジが戦闘中、あるいは施設内に居る時だけだ。それを考えて、今回はユウトとシンジが発令所でリツコたちの手伝いをすることになった。と言っても技術的なことではなく、ミサトやゲンドウたちに対する牽制の意味が強い。

ちなみに、シンジを除いたアスカとレイのチルドレン二人とアセリア・ユーフォリアの四人は射出されたエヴァの許にいる。

発令所に居てもできることがないので、一応自分達の乗機パートナーのところに居たほうがいい、という事になったためだ。

そして始まる作戦会議。

そのころになってようやくミサトが現れた。

どうやら執務室にこもっていたらしいのだが、事務仕事をしているうちに居眠りをしていたらしい。本人は否定しているが、その頬には鏡写しになった書類の文字がへばりついていた。

「MAGIの物理的消去を提案します!」

で、話を聞いての開口一番がこれである。

当然、

「却下します。MAGIを喪うことは本部の破棄と同義なのよ?」

「作戦部から正式に要請します」

「拒否します。これは技術部で解決すべき問題よ」

にらみ合う二人。

「何意地張ってんのよ!」

かつては親友と呼んでいたはずの相手を敵意むき出しの表情でにらむミサト。

「よろしいでしょうか?」

そんな二人を見つつ、日向が手を上げて発言する。

「しかし、現にMAGIがハッキングを受けていることは事実です。まだその段階ではないのでしょうが、万が一の場合はMAGIの破壊も視野に入れた対処を要請します」

その言葉に我が意を得たりとばかりに勝ち誇った表情を浮かべるミサト。

シンジとユウトはそれを見て大きくため息をついた。

別に日向はミサトの言葉に同意しているわけではない。

作戦部として常に最悪の状況を見越した発言をしているのだ。感情に任せたミサトの言葉とは重みが違う。

そんな日向に少しだけ苦笑を見せてリツコが言った。

「意地を張っているわけではないわ。貴方たちの言っていることは見当はずれなのよ」

「どういう意味よ!?」

馬鹿にされた、と思ったのか食って掛かるミサトを手で制しながらリツコは説明する。

「いい? 確かにMAGIはハッキングを受けているけれど、それでどうしてMAGIを破壊しなければいけないの?」

「へ?」

「あ!」

言われたことの意味が分かっていないミサトに対し、日向はすぐにリツコの言わんとするところを理解した。

「すいません! 馬鹿なことを言ってしまいました!」

慌てて頭を下げる日向に、いいわ、と微笑みながら、リツコはまだわからない様子のミサトに対して説明を続ける。

「使徒の本体はあくまで模擬体に寄生しているマイクロマシンよ。MAGIが受けているハッキングは物理的なものではなくあくまでネットワーク的なもの。つまり、ハッキングを受けたMAGIを破壊したところで使徒を殲滅することはできないのよ」

それとも、本部ごと自爆する? とリツコは締めくくった。

「じ、じゃあ、一体どうやって殲滅するってーのよ!?」

「言ったでしょ。これは技術部が解決すべき問題だって」

答えて、ミサトに一瞥を残すと、リツコは、

「マヤ」

「はい」

マヤに声をかけてゲンドウと冬月に向き直る。

同時にスクリーンにはマヤによって呼び出された作戦計画が表示されていた。

それを読み上げながらリツコが説明する。 「なるほど。今回の使徒がコンピューターそのものであるならば、MAGIの防壁を解除して使徒に直結し逆ハッキングをかける、ということかね」

「はい」

簡単に作戦を要約する冬月に、彼女は力強く頷いてみせる。

「しかし、可能なのかね? 相手は使徒だ。防壁を解除すると言うことはこちらも無防備になると言うことだぞ」」

臆病と言うよりは慎重な意見を述べる冬月。組織のトップとしては妥当な判断だが、

「すでにプログラムは8割がた完成しています。幸いまだMAGIの侵食領域も微々たるもの……十分に可能です」

「お任せください!」

自信に満ちたリツコの言葉。マヤもいつになく張り切って頷く。

「今回ばかりは作戦部も口出しできるものではありませんね。僕も赤木博士の案を支持します」

結局この日向の一言で大勢は決し、リツコの案が採用されることになった。

某作戦部長は最後まで騒いでいたが、代案など用意できるはずもなく(最後まで“MAGIの破壊”と喚いていた)、むっつりと押し黙ったままだった某司令の「問題ない」と言う一言で作戦は承認された。




○○○




一時間後、MAGIの侵食状況を表示するスクリーンではMELCHIORを示す四角の半ば以上が赤く塗りつぶされていた。

その隣に映るスクリーンには実験棟の模擬体、正確にはそれに取り付いているナノマシン状の使徒が造る、回路図のような光学パターンが煌いている。

いまやNERV本部内に残っているのは発令所要員を除けば、警備に当たる保安部員と少数の技術スタッフのみ。

万一の可能性を考えてD級職員以下の要員の避難もすでに完了していた。

発令所にはカタカタとキーボードを叩く音が響く。

『前史』のようにMAGIの筐体を開いて直接制御しているわけではなく、端末からの操作だが、リツコはこれで間に合うことを確信していた。

自滅プログラムの微調整と最終確認の作業も、もう終盤に入っている。

シンジの話によれば『前史』では彼女は「一秒近く余裕があるわ」と言っていたらしいが、それとは比べるべくもないほどの余裕がある。

「本当に間に合うわけ〜?」

そんなリツコの様子を悪意に満ちた視線で眺めつつ、ミサトが茶々を入れる。

自分の意見が通らなかったのが不満なのか、何をするでもなくリツコたちに話しかけては無視されていたミサト。

はっきり言って邪魔以外の何者でもない。

冬月やゲンドウをも含めた発令所の全員が彼女をバナナで釘が打てるほど冷たい視線で見ていたのだが、一向に気付いた様子はない。

そんなミサトをリツコもマヤも完全に黙殺していたのだが、ここに来てリツコは一言だけ反応を返した。

「今、終わったわ」

タン、と最後のキーを叩くリツコ。

ちら、とミサトを眺めるが、すぐに興味を喪ったように画面に視線を戻す。

「マヤ、そっちはどう?」

「はい、もう少し……今終わりました!」

二人は顔を見合わせると頷きあう。

「それじゃいきましょうか」

「はい」

そこからは本当に一瞬だった。

二人が同時にエンターキーを押した瞬間、スクリーンの中、MELCHIORを示す四角が一気にしとで埋め尽くされ、その右に配されたBALTHASARを示す四角が半ばまでをしとが侵食するが、赤い領域の拡大はそこでストップする。

ハッキングされた部分を示す赤い領域と無事な部分を示す緑色の領域がBALTHASARの四角の中で押し合うこと数秒、緑の領域が一気に赤を押しやり、MAGIは完全にその制御を取り戻す。


――――――!!


歓声に沸く発令所。

「やった!」

「よし!」

青葉と日向の二人も思わずガッツポーズを取る。

MAGIのスクリーンの横に映っている映像の中、模擬体を覆っていた光学模様が明滅し、徐々に輝きを喪っていく。

そこまで来てようやくリツコとマヤの二人も一息を吐いた。

「やりました! 先輩!」

「ええ、よくがんばったわねマヤ」

二人は笑顔を交わす。

戦勝ムードの漂う発令所の中で、ミサトは、チッと忌々しげに舌打ちを残した。

(アタシは自分の手で使徒を倒すことができないのに……どうしてリツコが……!)

その顔が怒りに歪む。それが自分勝手な怒りであるということには気付かずに、自分の思い通りにならないことに腹を立てる。

まるで子供じみた感情だが、子供のそれとは比較にならないほどに歪み、捻じ曲がった情念にあふれている。

乱暴に頭をかきむしる。

(くそ! 何なのよ今回の使徒は!? 私の指揮で倒せるような形で出てきなさいよ!!)

と、ミサトの思考がそこまでたどり着いた次の瞬間、


DOoooOOooOOOnN!!


轟音と振動が発令所を襲い、同時に耳をつんざくような警報が鳴り響く。

「何だ!? 一体どうした!?」

慌てふためく冬月の声。

「何が起こったの!?」

リツコの声にも動揺が混じっている。

「も、模擬体が……!」

その問いに答えるマヤ。

スクリーンの中では模擬体が再び金色の光学模様に覆われていた。

「パ、パターン青健在! 奴はまだ生きています!!」

青葉の報告に、再び発令所は驚愕に包まれた。




あとがき

お待たせを! お待たせをいたしました!

やっとこ書き上げて24話をお届けします。いやー難産だった。と言うよりも、時間をとるのに非常に苦労をいたしました。社会人って大変ですね。

さて、今回はTV版で言うところの「使徒、侵入」です。

シンジと言う情報提供者がいるのでリツコとマヤは事前に周到な準備をしています。

TV版よりもかなり余裕を持ってプログラムを送るところまではいきました。TV版と展開の変わらないところはもうはしょりまくりですが。で、このまま殲滅で終わりにしようかとも思ったのですが、それじゃ面白くないかな、と。イロウルさんにはもう一踏ん張りしていただくことにしました。次回をお楽しみに。

今回マヤを活躍させてみよう、とか思ってたんですが、やっぱりリツコに食われた感が否めない。うーん、役割的に一緒だから難しい……いや、私の筆力が足りんのが一番の問題だと思いますが。

次はどれぐらいでお届けできるか、まだ判断が付きません。執筆活動をもっとコンスタントに生活パターンに組み込めるとよいのですが、やっぱり疲れてたりするとパソコンに向かっても文章が出てこないんですよね。

気長にお待ちいただければ有難いです。

今回はこれにて、それでは。