二十七話


「む……ええと……むぅ? ……ふむ」

発令所の端末の前で、日向はうなっていた。

画面に映るのは先のイロウル戦時にシンジたちが見せた“A.T.フィールドのエネルギー転用技術”―― 暫定名「魔法」のデータだ。

「なるほど、魔法の威力は機体に依存するけど、魔法の種類……でいいのかな? どんなエネルギーに転用できるかはパイロットに依存するわけか」

魔法はA.T.フィールドのエネルギー転用。フィールドの出力が機体に依存するのは納得出来る理屈だった。

実際にはA.T.フィールド自体が魔法の一種なのだが、全力でフィールドをはらずに他にエネルギーを回していると考えれば、あながち間違いとも言えない。

もっとも、日向はそのことに気付いてはいないが、他者の神剣を使うことにあまり意味はない。やってやれなくは無いが力のロスが大きすぎるのだ。

『前史』においてはともかく、『今回』では機体の交換はそれほど有益なことでは無かった。

「ふむ……シンジ君は純粋にエネルギー転用して機体や武器の強化か」

使徒戦初期から初号機が見せていた発光現象はこれだったのか、と軽く納得する日向。

続いてアスカのデータを呼び出す。

「アスカは熱エネルギーへの変換が得意、と」

さらにそれを放出しての遠距離攻撃が出来ることが読み取れる。だが、A.T.フィールドとして使える出力は三人のチルドレンのうちで最も弱い。

「攻撃は得意だけど防御は苦手か」

何となくアスカらしいと思った日向は苦笑を一つ漏らした。

「さて、次はレイちゃんだな」

言いながらレイのデータを呼び出す。

「ふむ。三人のなかで一番魔法が得意なのはレイちゃんか」

ざっとデータを眺めた日向はそう口に出した。

試作機である零号機。A.T.フィールドの出力自体は初号機には及ばない。攻撃の威力も弐号機の炎の魔法にはかなわないだろう。

だが、三人のパイロットのうち最も多彩な魔法を使うことが出来るのがレイだ。

得意としているのは冷気を操る魔法だが、そのほかにもシンジと同じく純粋なエネルギーへと変換したり、周囲の物質――空気や地面など――に働きかけて物理作用を起こすこともできる。

一つ一つの力は弱くても、多彩な技を持つ、と言うことはそのまま、戦闘においては取り得る手段が多い、と言うことにつながる。そして、それは時に単純な力の強さにも負けない強みになる。

「まさしく“魔法使い”って感じだな」

黒いフード付きのローブと背丈を越える大きな杖を構えるレイの姿が頭に浮かんだ。マントのように広がったローブの下は何故か第壱中学の制服。

「いや、アニメじゃないんだから」

自分で突っ込みを入れながらも日向の妄想は止まらない。

杖を構えるレイの横に軽装の鎧を纏い、右手に細身の剣、左手に火球を構えたアスカの姿が浮かんだ。

身軽で、剣も魔法もこなすその姿は、

「はは、魔法戦士だな」

そして、その二人を守るようにフルプレートの鎧を着込んだシンジが幅広の長剣を手に現れる。

「おおう、勇者か騎士か」

頭の中の三人に様々なポーズを取らせて見つつ、日向はからからと笑った。

「はっはっは……よし!」

ひとしきり笑うと、日向は気合を入れなおす。

データ確認は終えた。後は子供達の新しい力をどのように生かすのかを考えるのが自分の役目だ。

日向は戦闘には出られない。最前線に立つのは常に子供達だ。

そのことはいつも胸にある。本当にこれでいいのかと考える。

もし、自分がエヴァに乗れるなら。戦うための力があるのなら。いつもそう考える。

だが、実際に敵と戦う力を持つのは子供達だけなのだ。

だからこそ、自分の職分において手を抜くことは許されない。NERV職員としてはもちろん、子供を戦場に立たせてしまっている、大人の責任として。

日向はそう考えていた。

「さ、て、と……このバランスだと、基本は弐号機を攻撃役に初号機がその直援、零号機は二機の支援、ってとこかな?」

言いながら日向は三機のフォーメーションを考えていく。機体の位置関係だけでなく、戦場となる第三新東京市の地形や兵装ビル、アンビリカルケーブルの接続位置なども考慮に入れつつ、様々な作戦案を挙げる。

彼の作業は深夜まで続くことになった。




○○○




今日も今日とて訓練である。

時間は早朝。とは言っても常夏の日本。すでに日は高く、湿気の濃い空気には多分に熱が混じっている。

高嶺邸の庭では六人の少年少女が三組に分かれてそれぞれの武器を手に向かい合っていた。

それぞれの組み合わせはシンジとユウト、アスカとアセリア、レイとユーフォリアだ。

チルドレンVSエターナルといったところか。

「そんなもんか、シンジ!?」

「まだです!」

シンジとユウトは紫の直刀と鋼の大剣をぶつけ合う。

一足刀の間合いから十数合と剣を打ち合わせたかと思えば、鼻を突き合わせるような距離での鍔迫り合い。その次の瞬間には拳や蹴りまでを交えたぶつかり合いは、もはや実戦といっても過言ではない。

「遅いぞ、アスカ」

「くっそ……!」

剣の重量を生かした力強いアスカの一撃一撃を、それこそ舞うような動きで紙一重でかわし、剣でなでるように刃をそらすアセリア。

蒼銀の長剣と朱金の両翼刃が風を切って舞う様はある種の舞踏を思わせる。

早朝の訓練は神剣の力の使い方よりも、契約者本人の体術や剣術の技術向上の意味合いが強い。現に彼らは神剣魔法を使う事無く、僅かな身体能力強化を施しているだけだ。

「……!」

「えい!」

一方、無手と杖で向かい合っているレイとユーフォリアは少々事情が異なる。

彼女達はどちらか問えば魔法をメインとした戦い方をする。

二人が放っているのは特に属性を付与しない単純なエーテルの塊。いわば魔法の模擬弾だ。

とは言え、殺傷力は低いものの当たれば痛いし衝撃もある。それを体術を交えつつ様々なバリエーションをつけて撃ち合っていく。時間差で次々と撃つかと思えば小さなものを数十と弾幕のように放っている。

三組の戦いは互角に進んでるようにも見えるが、実際は一様にエターナルの三人の優位に運んでいる。

チルドレン三人の本気に対して、高嶺一家はまだまだ余裕を残していた。

別にシンジ達が弱いわけではない。

単純にエターナルと言う存在が桁違いなだけである。神剣の力も、戦いの経験も、訓練によって身に着けた技術も――言ってみれば戦いに必要な全ての力が違いすぎるのだ。

この後、十数分ほど続いた訓練は大の字になって寝転び、息を荒げるシンジ、アスカ、レイとそれを苦笑しつつ眺める高嶺一家、と言う結果に終わったのだった。






それ・・は唐突に現れた。

第三新東京市、市街地の一角。

二車線の、第三にしては細い道路を挟んでいくつかの小さなビルが立ち並び、何本かのごく細い路地を形成している。

まだ早朝と言っていい時間帯ながら、すでに日は高く、その光にさらされたアスファルトがじりじりとした熱気を放っている。

立ち並ぶビルや路上に止められたままの車が、上空から降り注ぐ太陽の光によって地面に影を落としていた。

その影の中からにじむように、まるで影から影が産み落とされたかのように、ポツンと丸い影が一つ現れていた。

大きさは卓球のボール程度。誰か見る者があったとしても特に気にするようなものではなかっただろう。

だが、その影は一つの異常をはらんでいた。

ないのだ。影の元となる物が。

影とは物体が遮った光の届かない箇所をさす言葉だ。「影」というモノが存在するためには、光とそれを遮る物体が必ず存在する。

光はある。だが、その球状の影の上を見渡しても、その影を落とすようなものは存在しない。

それはただ影としてそこにあった。




○○○


教室にチャイムの音が響く。

「それでは、ここまで」
「起立、礼。ありがとうございました」


ありがとうございましたぁ。


授業の終りを告げるクラス委員の号令。続く形ばかりの感謝の言葉にクラスメート達の声が唱和する。

先ほどの授業は四限目。続く現在は昼休みだ。弁当を持ってきていない生徒たちが購買へ学食へと我先にと走り出す。

そんな姿を苦笑と共に眺めつつ、ユウトは大きく伸びをして授業で固まった体をほぐした。

第三新東京市立第壱高等学校。

市内にいくつかある公立の高校の中では、平均的とでも言おうか、取り立てて特色の無い学校である。

進学率が良い訳でもなく、さりとて部活動が盛んと言う訳でもない。強いて言えば、生徒たちが進学だ大会だと差し迫ったものがないためにあるのんびりとした校風が特徴といえるだろう。

かつて共に戦った戦友たちや親友や最愛の義妹とは遥かな時の流れの中で別れてしまったけれど、隣には愛する人が居てくれる。

エターナルとして向かう世界は常に戦場。それはこの世界でも変わらないし、戦いの合間にのんびりと過ごす期間が無かったわけではない。

だが、こんなにも居心地のいい場所で過ごすのは二人にとって初めてだった。

戦場において絶大な力を持つエターナルは、敵味方の別なく、良くも悪くも特別視される。

ユウトはこんなに大勢の自分を特別視しない人間の中ですごすのはファンタズマゴリアに召還されて以降では初めてであったった。また、生まれたときからスピリットとして偏見の目に晒されてきたアセリアに至っては、その永い生の中においても初めての経験だった。

ユウトもアセリアもこの学園生活を非常に楽しんでいた。

のだったが。






(この雰囲気はどうにかならないのか……?)

神剣の力を解放して窓から逃走しようか、などと実際やったらしゃれにならないことを半ば本気で考えつつ、ユウトはため息をついた。

いつもの教室。時は昼休み。

珍しく教室でシンジ謹製の弁当を広げていたユウトは、教室で昼食を取ったことを後悔していた。

隣に座るアセリアの一件にはほとんど動いていない表情にも多分な戸惑いが混じっているのが、永い時を連れ添ったパートナーであるユウトには見て取れた。

十重二十重と自分とアセリアを取り囲んだクラスメイト達を眺めて、ユウトは途方にくれていた。



時間を少しまき戻す。

授業終了直後、体を伸ばすユウトに話しかける声があった。

「ユウト」

「ん」

アセリアだ。ユウトはそれに短く返す。

「屋上?」

と問うユウトにちらと右手に視線を向け、

「ここ」

と答えた。

その視線の先にいる三人の女子生徒の姿を見て、

(ああ、一緒に食べる約束でもしてたかな)

と理解する。

先のやり取りは昼食を摂る場所を尋ねるものだった。

「俺は?」

「ん」

「俺もか」

次いでの問にも短く答えるアセリア。

どうやらユウトも件の女子生徒たちと昼食をとることになっているらしい。

短いやり取りだが、二人はそれだけできちんと意思疎通が出来ている。

貫禄の以心伝心っぷりであった。

さて、そんなこんなで女生徒三人と食卓(といっても机を四つくっつけたものだが)を囲むことになったユウトとアセリア。

“きゃぴきゃぴ”という擬音が聞こえてきそうな女生徒たちの様子に、アセリアと共に少々圧倒されながらも会話を交わしながら楽しく昼食を取っている時に、その質問は投げかけられた。


「そういえば、高嶺君たちって、避難警報でてる時ってシェルターにいないけど、どこにいるの?」


「へ? あ、えっと……」

唐突であったがために、一瞬返答に詰まってしまったユウト。これが運のつきであった。


「あ! やっぱりあの噂ホントなんだ!?」

「う、噂?」

「そう! 私たちだって知ってるんだから! あの避難警報が出てるとき、街で怪獣とロボットが戦ってるの!」

「そ、それは……」

「ね、ね! やっぱり高嶺君たちがあのロボットのパイロットなんでしょ!?」

「はぁ!?」

「あ、あ、やっぱりそうなんだ〜!」

その発言に、密かに彼らの会話に耳を傾けていたのだろう、クラスに残っていた生徒の全員が反応した。

「なに、マジ!?」

「やっぱりあの噂ってほんとだったのか!?」

「すっげぇ!」

「サイン頂戴よ、サイン!」

「ねぇ、どうやって選ばれたの?」

いつぞやのシンジよろしく、あっという間に囲まれてしまったのだった。


(……どうする?)

(……任せる)

(あ、ズリィ)

(…………)

詰め寄られた二人はとアイコンタクトで会話する。

判断を丸投げするパートナーにユウトは避難の視線を浴びせるも、そっぽを向いて知らぬふりのアセリア。

「ハァ……しょうがねぇなぁ…」

ため息をつきながらの台詞に、とうとう観念したか、とクラスメイト達の好奇の視線が集中する。

高まる視線の圧力に若干ひきながら、ユウトはわずかばかりの真実を話すことにした。

「確かに俺たちはアレの関係者だが……」

と、ここまで言ったところで、


「「「うおおお〜〜!! マジか!?」」」

「「「きゃああ〜〜!! すっご〜〜い!」」」


一気にヒートアップする聴衆たち。

「いや、違っ……話を……えぇい!」

否定しようとするユウトの言葉に全く耳を貸さないその態度に、ただでさえこれまでのことで鬱積していたユウトの我慢が限界に達した。

「静まれ!!」

大喝。

数多の戦場で敵には恐怖を、味方には希望を与えてきたその声。

聴くものに反論を許さぬ、圧力と迫力を備えた声だ。

その声のはらむ“気”に当てられていっせいに静まり返る教室。

「いいから、まずは、ちゃんと、話を、聞け」

若干目の据わったユウトの様子にカクカクと同じ動きで答えるクラスメイト達。

そんな様子に満足したのか、ユウトはいったん深呼吸をして気持を落ち着けると、先ほど言おうとした言葉を続ける

「あのロボットに乗ってるのは、俺の親戚の坊主だ。俺たちが戦闘の時にいないのは、そいつのアシスタントみたいなことをやってるからさ」

そう始めて、シンジたちのサポートについている旨を説明する。

もっとも、主にメンタル面の支えとなることがメインだ、と言う内容だ。

本当のこと(作戦部長の考えた作戦をぶった切りにしたり、総司令に組織のトップのあり方を説いたり、自分勝手な連中に睨みを聞かせたり)を言っても、信じてもらえないか、余計ややこしくなることが見えているからだ。

ユウトは適当にごまかしながら、クラスメイト達の質問に答えていった。




○○○




小さな影は、ただ影としてそこにあった。

誰も気づかず、気にも留めないその影。

その影の“内”に空間が広がりつつあった。

最初はごく小さな、影の本体たる“欠片”を納めるだけだったその空間。常人には視認出来ない、その影のなかに秘められた暗い空間は急速にその規模を拡大していた。




○○○




ユウトとアセリアがクラスメイトに囲まれているのとほぼ同時刻。

「ったく、どうして勝てないのかしら……?」

「……」

ぼやくように呟いたアスカに同意するようにレイはこくこくと無言で頷いた。

第三東京市立第壱中学校は2年A組の教室。

昼食を摂るために集まったチルドレン三人の話題に上がったのは今朝方行われた訓練だった。

ちなみに、ユーフォリアは今日は他のクラスメイト達と中庭に行っている。

最初はシンジ達と食べようと思っていたユーフォリアだったが、アスカの「これからアンタ達に勝てるような作戦考えるの!」との台詞に、苦笑を浮かべ手教室を出て行ったのだった。

「どうしても何も年季が違いすぎるのさ」

ぶつぶつと意見を交し合っている少女二人にシンジは悟りきったような口調で応えた。

「何よ、始めっからあきらめてるわけ?」

自他共に認める負けず嫌いの少女が、後ろ向きとも言える発言をした少年に食って掛かるが、

「そんな訳ないだろ! ユウトさんたちには千年単位の研鑽がある。それに一朝一夕で追いつこうなんて、無理な話だよ」

対する少年は冷静にそう返す。

目標として彼らを目指すのはいいが、追いつこうと思えばそれこそ数千年の時間が必要なのだ。

「遠くを見すぎたら足元の石につまずいて転んじゃうことだってある」

少しだけ真剣な表情でシンジはアスカとレイを見つめる。

「僕らの……神剣使いの力はとても強大だ。だからこそ、その制御はとても重要だ」

シンジがユウトたちから最初に学んだこと。そして力を得るうえで最も重要なこと。

「目的がいるんだよ」

いたずらに力だけを求めては、それは結果として破滅をもたらす。

「何のために力を得て、何のためにそれを振るうのか」

大事なことだよ、と二人に告げる。

「分かってるわよ。サードインパクトの阻止」

「……」

当然でしょ? と胸をそらせるアスカと、それに同意するように頷くレイ。

それに、シンジも首肯した。

「アンタから聞いた未来……あんなの絶対認めないわ」

「護る……私たちの世界と未来」

「うん、護ろう。三人で。ユウトさんたちはあくまで協力者だ。この世界を護るのは、この世界の住人である僕達であるべきなんだ」

シンジの言葉を受けて力強く頷いて見せる二人の少女。自然と三人の顔に笑顔が浮かんだ。

「ね、アレやろう!」

そんな中、唐突にアスカがそう言った。

「アレ?」

「……?」

いきなりのことにシンジとレイは首をかしげる。

「ほら、ドラマとかであるじゃない! 大会前とか、皆で何かやる前に、手を合わせて、こう『オー!』とかやる……」

「円陣組んで『エイエイオー』とかやる、アレ?」

「……?」

なんとなくシンジはアスカの言いたいことがわかったが、レイは分からないのかやはり首をかしげている。

「いいから、ほら手を出して……」

結局アスカに押し切られるような形で立ち上がった三人は輪になって中心へと右手を差し出して重ねる。

「……なんか、目立ってない?」

教室の中で突然そんなことを始めれば衆目を集めるのも当然である。

いきなり立ち上がって円陣をくみ出した三人にクラスメイト達の好奇の目が集中した。

「いいから、ほら、いくわよ!」

そんな目線を一切気にした様子も無く、アスカは突き出した手を“早く早く”と上下させる。

「わかったよ、じゃあ号令を……」

「あんたが出すのよ」

「ふへ?」

アスカの言葉にシンジはびっくりした顔を見せる。

「何て顔してるのよ。当たり前でしょ?」

「そうなの?」

「そうなの! いいから早くしなさい」

「分かったよ、もう」

「ふふ……」

不承不承と頷くシンジとアスカのやり取りをみてレイが微笑む。

「ほら、早く!」

「うん、シンジ君、早く」

太陽のような満面の笑みを浮かべた少女と、月のように静かに微笑む少女に促され、少年はあきらめたようにため息をついた。

「じゃあ、いくよ?」

息を一つ吸い込む。

「三人で、この世界を護るぞ!」

「「「おぉー!!」」」

シンジの号令にあわせてときの声を上げる三人。同時に合わせていた手を掲げるように頭上へと挙げる。

「よーし、何かやる気が出てきたわ! 帰ったら早速特訓よ!」

「うん」

意気をあげるアスカにつられるように、レイが頷く。

「分かった付き合うよ」

そんな少女達に 苦笑して、シンジはそう答えた。




○○○




影は自らの内に広がった空間に満足したかのようにぶるりとその身を震わせた。

その様はまるで意思を持っているかのようー否、実際にその影には薄いながらも意思、あるいは自我と呼べるものが芽生えていた。

そして充分に成長したと判断した影はその目的のために行動を開始した。




○○○




「「「!」」」

中学の教室で、輪になっていた少年と少女達は弾かれたように窓の外へと顔を向けた。

「? どないしたんや、いきなり」

「どうかしたの三人とも?」

不思議そうな級友たちに答えることもせずに、三人は睨むように窓の外を見つめ続けた。



「来たか……」

「……ん」

「ん、何か言ったか?」

「いや、何も」

高校の教室で、クラスメイトに囲まれていた少年と少女は誰にも気付かれない程度の小さな声で会話を交わした。

「さて、もういいだろ? いい加減に解放してくれよ」

そういいながら立ち上がる二人。

クラスメイト達の抗議の声をかわしながら教室を後にする。

そして、廊下に出たところで走り始めた。少しでも早く彼らの戦場に行くために。



「……」

中庭で友人達と昼食を摂っていた蒼髪の少女は急に黙り込んだ。

その顔には真剣な表情が浮かんでいる。

「どうかしたの?」

「ううん、なんでもないよ。ごめんね、ちょっと用事思い出しちゃった」

心配そうな友人に、笑顔と共にそう答えて少女は立ち上がった。

いつの間にか弁当はかたずけられている。

「じゃ、またあとでね」

そのまま走り出す。

不思議そうな顔のまま、友人達はそれを見送った。




○○○




影はその身を広げ始めた。

先ほどまでは内なる空間を成長させながらも、外界には全く変化を見せていなかったが、それを忘れたかのように劇的に大きくなっていく。

卓球のボール大だったのが、野球のボールになり、サッカーボールになり、路上駐車されていた車の影を飲み込んで、ついにはその一角を丸ごと覆い尽くす。

そしてその影の上空に現れる“影”

白と黒のマーブル模様で構成された球体が突如として出現していた。


第十二使徒「夜を司る天使」レリエル襲来。




あとがき

あー、長かった。むしろ永かった。お久しぶりです。お待たせしました。

ぶっちゃけ仕事きついです。書こう、書こうとは思うんですが、帰ってくるとその気力も無く……

ちょこっと書いては一週間放置、見たいな情況が続いてしまいました。えーと、前回の更新が七月末だから、五ヶ月ぶりですね。すいません。ホントに。

途中何度か励ましのメールとか拍手のメッセージとかいたいただいたんですが、気力も無く返信すらしなかった非礼をお許しください。おわびとお礼を申し上げます。すいませんでした。ありがとうございます。

さて、第27話。レリエルさんがやってくるまでと、ユウトとアセリアの学園生活が書きたいなぁ、と思ってあんな感じに。いかがでしょうか。

まぁ、本番はこの次の話ですよね。がんばります。

今回はこれにて。それでは。