第十七話
さて、中学校というのは勉学の場である。
もちろん、友人を作ったり、部活に精を出したり、集団生活のルールを学んだりと、一概に勉強だけをやる場ではないものの、一般的に学校という場所は勉強をする場所だ。
そして、互いに切磋琢磨せよ、ということなのだろうが、学校という場は何事においても生徒の順位付けをしたがる。
その順位付けのためには、生徒一人ひとりがどの程度の力を持っているのかを知る必要がある。
まぁ、つまり何が言いたいのかといえば、第壱中学校は試験期間の真っ最中であった。
「試験ねぇ……? 旧態依然とした減点式のテストだなんて……」
「ま、郷にいれば郷に従えって奴だよ」
試験があると聞いたアスカは、大学で受けた論文形式やレポートをまとめるようなものを想像したところ、シンジたちからその説明を受けて呆れた調子で呟いた。
「は! 大学出は違うのぅ!!」
「鈴原! そんなこといってる暇があるなら単語の一つでも覚えなさい!!」
中間試験は主要五教科――つまり、国語、英語、数学、理科、社会の五つの科目を二日間に分けて行われる。
そして、今日は一日目、英語・数学・理科の三科目が行われることとなっていた。
「わ、わかっとるがな……」
アスカに突っかかったところをヒカリに一喝され、トウジは再び教科書に目を落とした。
シンジたちのグループの中では一番やばいのはトウジである。彼はこの一週間ほどの間、ほぼ付きっ切りでヒカリの指導を受けていた。
その裏にユーフォリアやアスカの入れ知恵があったのは間違いないが。
教室の生徒たちは試験が始まるまでのわずかな時間に最後の追い込みをかけていた。
シンジたちのグループに限っては、それを行っているのはトウジだけだったが。ヒカリは常日頃から勉強を欠かさないし、ユーフォリアとレイも計画的に試験勉強を行っており、準備は万全。シンジとアスカ(大学卒)に至っては言わずもがなである。
そして、
「机の上の物を仕舞ってください」
監督役の教師の登場に、多くの生徒がため息をついた。
○○○
時は過ぎて、三時間目。アスカはピンチに陥っていた。
大学を卒業している彼女にとって、中学校の試験問題ぐらい解くのは何の問題もない。
――――問題が読めれば。
日本語というのは世界でもまれに見るほどの難解な言語だ。
音節はやたらと少ない(同音異義語が山のようにある)くせに、文字だけはやたらと多い。しかもひらがな、カタカナ、漢字、場合によってはアルファベットも入って四種類だ。
たとえ日本語を流暢に話すことのできる外国人でも、漢字の読み書きまで自在にできる者はかなり少ない。
そして、アスカも漢字が読めない外国人の一人であった。
一時間目は良かった。英語である。問題は「単語の意味を書け」とか「日本文を英訳しろ」とか「英文を和訳しろ」とかだ。英訳する和文を読むのに手間取ったが、たかだか中学二年、早々難しい文章が出てくるわけではない。何とかしのぎきった。
二時間目も良かった。数学だ。その問題のほとんどは数式を解くもの。むしろ簡単すぎてあくびが出たほどだ。
問題は三時間目、理科。むしろ得意分野だ。――問題が読めれば。単純な知識を問う問題にしろ、数式を組み立てて解く問題にしろ、問題が読めなくてはどうしようもない。そして、理科というのは普段使わない漢字も多くでてくる。
(しまったなぁ……)
たかだかAufbauschuleのテストと甘く見ていた。
アスカが途方にくれていると、
「先生」
という声。少しだけ教室内がざわめく。
声の主は、
「シンジ?」
「どうしました? 何か問題が?」
「いえ、惣流さんなんですが」
「あたし?」
いきなり話を振られてびっくりするアスカ。
「彼女がどうかしましたか?」
「はい、惣流さんは日本に来て間がないので、漢字が読めないんじゃないかと思って」
どうやら四苦八苦する様子を見られていたらしい。少しだけ赤面するアスカ。
「ふむ。そうなんですか、惣流さん?」
「え、その……はい」
「では……」
と言いかける教師をシンジは制し、
「僕が問題を読んであげてもいいですか?」
「む? ですが君のテストは……」
「もう終わっています。カンニングが心配でしたら、僕の回答は回収してもらってかまいません」
教室内に控えめな驚きの声が満ちた。
試験開始から10分もたっていないことを考えれば当然である。
「それに、僕は多少ドイツ語ができますから」
「……分かりました。お願いします」
本来なら、他の教師を呼んできてやらせるべき役目だが、シンジの「ドイツ語ができる」という発言には説得力があった。さらに言えば、クラス内にも人望の厚いシンジを信用した結果とも言える。
「ありがとうございます」
とシンジは、近付いてきた教師に回答を渡し、アスカの席に近付く。
「Danke」
「Sie sind willkommen」
小さく言葉を交わして、
「それじゃ、やろうか」
と、シンジは問題の独訳を開始した。
「なにこれ?」
「回路図……Ein Verbindungsdiagrammだよ」
「日本のなんて知らないわよ!?」
「IEC準拠で大丈夫だから……」
「これは何て読むのよ?」
「露点……Der Taupunkt、水蒸気の凝結温度を求める問題だね」
「幼稚な事やってんのね……」
「こっちは何よ?」
「Thermale Ausdehnung 熱膨張の問題」
「ふーん……じゃ、早く条件を読んでよ」
「これ範囲外だから、結構きっちり説明してあるけど全部読む?」
「……必要最低限でいいわ」
「了解……係数が2/kの物質が……」
と、そんなこんなでシンジの助力を得て、アスカは試験を乗り切った。
問題を読む手間がかかった分、時間がかかったものの15分ほどですべての問題を解き終えたのだった。
次の日のテストは、英語教師によって英訳された物がアスカには用意された。
しかし、科目は国語と社会。
歴史や古文など、英訳しても知識がなくては解けない問題や、そもそも英訳のしようがない問題には手が出せなかった。
「日本の歴史? 和歌? 古文? そんなの知らないわよ!!」
と少女が叫んだかは定かではない。
○○○
第三新東京市の都市部にあるデパート。
試験が終わった最初の休日、すっかり仲良しグループになってしまったシンジ・レイ・アスカのチルドレンたちにユーフォリアとヒカリ・トウジの三人を加えた六人組は、高校の試験も終わったユウトとアセリアの二人も加えた八人と言う大所帯でショッピングに繰り出していた。
「しかし、何で女の買いモンっつーんは、こないに時間がかかるんや?」
「ま、しょうがないんじゃないかな?」
「アセリアやユーフィが楽しそうだから、俺はかまわないけどな」
苦笑するシンジたち男子三人ではあるが、女所帯であるために、当然女性がリードすることになり、彼らは荷物もちに甘んじているのだった。
「ふっふっふ。さーてここからが本日のメインイベントよ!」
無意味に得意げにアスカが胸を張る。
彼らがやってきた場所は、
「……水着売り場?」
「そうよ!」
笑顔のアスカに
「そうか、もうすぐ修学旅行だもんね」
ヒカリが答える。
「修学旅行の行き先は沖縄! 沖縄といえば海! そして海といえば……」
「「水着!」」
「……そうなの?」
「らしいね」
「水着……?」
パチン、と手を合わせるアスカとヒカリに対し、首をかしげるアセリアとレイ。そして、それを苦笑しながら見ているユーフォリア。
よくよく考えてみれば、一般的な“女の子”の感覚を持っているのはアスカとヒカリ、かろうじてユーフォリアが引っかかるくらいか。
もっと言えば“普通の女の子”の概念におさまるのはヒカリだけだったりする。
彼女にしてもずいぶんと個性的なのは否定できないが。
「そうよ! 夏といえば海! 海といえば水着! そして水着は女の勝負服なのよ!」
気合入れて選ぶわよ! と元気なアスカ。
“一年中夏なのに?”と、思わず突っ込みを入れそうになったシンジだったが、とりあえず無粋はよそうと思いとどまった。決してアスカが怖かったわけではない。
女子一同はなんだかんだと言いつつも、三々五々と店内に散っていく。
アスカはレイをつれてはしゃぐように店内を飛び回る。ヒカリはそんな二人を眺めつつ、自分が着る物を入念に選ぶ。アセリアとユーフィは早々におそろいのワンピースタイプの物を見付けてご満悦だ。
「シンジー! ちょっと来なさい!」
と、店の奥のほうからシンジを呼ぶアスカの声。
当然ながら、それは店内の他の客や店員の注意を引く。
「センセ、呼んでるで」
「うん……」
同情するトウジに赤面しながら頷きつつ、シンジはアスカの所へ向かう。
「シーンージー!!」
「分かったから、大声出さないで!」
そんなシンジの心からの叫びは、店員さんの同情と笑いを買ったのは言うまでもない。
「これとこれ、どっちがいいと思う?」
言ってアスカが見せるのは、レモン色と赤白ストライプのビキニ。
どちらも布地が少なく、いくらアスカが中学生にしてはスタイルが良いといっても少々過激な気もする。
「うーん……」
と悩んだシンジは、ちら、と他のものを眺めて、
「これなんかどうかな?」
と一着の水着を差し出した。
タンキニタイプの水着だ。色は赤と派手だが、特に柄などがないため先ほどの二着よりもずいぶんおとなしめのデザインに見える。
「ええー? ちょっと地味すぎない?」
とアスカは不満げだが、
「でも、やっぱりアスカの色は“赤”だって思うし……」
それに、と続けて、
「アスカは元々綺麗だから、そんなに派手なの着なくていいと思うよ?」
と言った。
「え!? あ…っと……」
これにアスカは少々慌てるが、
「な、何当たり前のこと言ってんのよ? し、しょうがないわね、どうしても着て欲しいっていうならこれに決めてあげてもいいわ……」
と、どもりながらも言う。視線をそらしつつ頬を染めて。
シンジはアスカのそんな様子に気付いた様子もなく、
「うん、どうしても」
そう言って微笑んだ。
○○○
何故だろう?。
レイはアスカとシンジの様子を見ながら、そう思った。
二人が話しているのを見ると、少しだけ心がざわめく。
レイにとって二人は大事な友達で、尊敬できる戦友だ。特にシンジはかけがえのない家族であり、自分に心を取り戻させてくれた恩人でもある。
そんな彼らが楽しそうにしているのは嬉しいはずなのに、なんとなく胸が痛い。
二人の仲がいいのは元々だし、アスカは三年前からシンジを知っている。
先の使徒戦からだろか、二人の距離はますます近くなった気もするが、それとて悪いことではないはずだ。
なのに何故、心がざわめくのだろう?
まだ幼いレイの心は、その感情の名前を知らなかった。
○○○
「私にも選んで」
「え?」
「レイ?」
レイはじゃれあっている二人に話しかけた。
「私にも、水着、選んで」
確認するようにもう一度言うレイ。
「うん、分かった」
「任せときなさい! いっちばんレイに似合うのを選んだげるから!」
二人は微笑んでレイに答える。
そして、並んだ水着を物色しながら、あーでもない、こーでもないと議論を始めた。
「レイは色が白いんだから、鮮やかな色のほうが良いんだって」
「でもレイの色は白か青だと思うんだけどな」
「レイ! こっちに来なさい! あんたのを選ぶんだからあんたも意見出しなさい!」
「ええ」
答えて少しだけ微笑む。
もう心のざわめきはなくなっていた。
結局三人で考えた末に、レイの水着は青いパレオのついた白いワンピースになった。おとなしいデザインであるがとても似合っていたことを記しておく。
○○○
「ええーーーーーーーーーー!? 修学旅行に行っちゃだめ!?」
「そうよ」
怒鳴り込むアスカを前にして、ミサトは何が嬉しいのかにんまりとしながら言い放った。
「何でよ!?」
「戦闘待機だもの」
「誰が決めたのよ!」
「作戦担当のあたしよ」
皆でショッピングを楽しんだ翌日の放課後、シンジたちチルドレン三人は、連絡事項があるとかでNERVへと呼ばれた。
ミーティングルームに入った三人を待っていたのはミサト。
彼女は彼らが入ってくるなりこう告げたのだ。
修学旅行に行ってはならない、と。
「いい、アスカ? あなたはエヴァのパイロットなの。そして、使徒はいつやって来るかわからない。だから、いざというときにいつでも動けるようにしておくのは当然なの。分かるでしょ?」
とくとくと語るミサト。何故か得意げな笑み。
大方、自分を軽んじるアスカの楽しみを奪えるのが嬉しいのだろう。
ミサトとアスカの仲は良くない……と言うよりも、悪くなった。あるいは、アスカがミサトの本性に気付いた、と言うべきだろうか。
何かにつけて、高圧的に命令を下し、その命令もどこか的外れなミサト。
アスカにしてみれば「シンジに近付くな」という命令の意味が分からないし、承服することなどできるはずもない。。
もっとも、ミサトに言わせると「平気で命令無視をするような奴と付き合うのは、アスカに悪影響を与えるに決まっている」のだそうだ。
ちなみに、何度も確認することだが、ミサトにシンジ、そして今はレイに対する命令権はない。彼らの立場は民間協力者であり、作戦への協力要請はできても、その指示に強制力はない。
レイもその立場になったと知ったときはかなりの大暴れをしたらしいのだが、そのことは極秘事項だそうな。
さて、そんな彼女が(復讐の駒である)アスカがシンジと親しくすることを認められるはずもなく、何かにつけてシンジに関わるな、と口を出してくる。
懐柔策(「私の家に来なさい」と命令口調だったが)も行ったのだが、少なくとも家の掃除をしていなければ逆効果でしかない。
もちろん、アスカは拒否。ミサトへの反発もあってますますシンジと仲良くしようとする、という(ミサトにとっては)悪循環に陥っていた。
「もちろん〜、シンジ君とレイに命令権はないから、あなたたちは行っていいわよ?」
そして、これ。今回の命令権を行使したアスカの戦闘待機は、シンジたちと仲違いさせ自分の言うことを聞きやすくさせようという彼女の企みでもあった。
「葛城さん」
「何よ」
そんな様子が見え見えのミサトにシンジは話しかけた。
「何故、あなた方はアスカを学校に通わせてるんですか?」
「そんなの決まってるじゃない。パイロットって言っても中学生の子供でしょ。平時は普通の学校生活を送ってもいいんじゃない?」
エヴァの操縦にはパイロットの精神的な安定性が必要。それを得るために“心の休養”が必要だ。それを得るための“日常”そして“日常”の象徴としての“学校” 平たく言えばモチベーションを維持するため。
ミサトは模範解答のような答えを返した。
「なら何故、修学旅行に行ってはならないんですか?」
「さっきも言ったでしょう? 戦闘待機だからよ」
シンジは淡々とミサトに問う。ミサトは訝しげな表情をしつつも答える。
そんなミサトにシンジはため息をつきながら続けた。
「あなた方は、どうしてそう身勝手なんですか?」
「身勝手? どういう意味よ?」
「一方では日常を過ごさせるためと学校に通わせ、一方では戦闘のために学校行事に参加するなと言う……アスカ自身のことは何も考えていない、身勝手な物言いだとは思いませんか?」
「そ、それは……だ、だって、しょうがないじゃない!」
ミサトはシンジに指摘されてはじめて自分の言葉の矛盾に気がついたらしい。
「そうですね。確かに“しょうがない” でも、その言葉で誰もが納得するわけではないということを覚えておいてください」
「どういう意味よ?」
「僕も、レイも、そしてアスカもあなたの言葉に納得していないということです」
レイとアスカはシンジの言葉を肯定するように頷き、ミサトをにらむ。
「く……でもね、これは命令で、もう決定事項なの。あなたたちが何を言おうと、少なくともアスカはこの命令に従う義務がある」
ふふん、と今度は先ほどまでの葛藤を忘れたように、自らの言い分を前面に押し出してきた。
「分かっていますよ」
冷めた口調で答えつつ、だから、とシンジは続けた。
「僕もレイも修学旅行には行きません」
「え!?」
これに驚いたのはアスカだ。だが、シンジはとりあえずそれを無視して、
「昨日レイと話し合って決めました。NERVがアスカを第三においておこうとするのは見えてましたし」
レイも無言で頷く。
そこでシンジは唖然とするアスカに笑いかけて、
「修学旅行の間は僕らの家においでよ」
合宿だ、とシンジは言った。
「こないだの訓練みたいな感じで。でも訓練は無しだし、三人で遊ぼう」
ね、とシンジは微笑む。
「で、でも……あんたたちはそれでいいの?」
その問いにシンジとレイは顔を見合わせて、
「……アスカが一緒じゃないと楽しくないわ」
「レイの言うとおりだよ」
そう言って微笑む。
「シンジ、レイ……ありがとう」
アスカも笑って答えた。
「じゃあ、もういいでしょう? 僕らは帰りますから」
「ち、ちょっと待ちなさい!!」
三人が立ち上がったところでミサトは呼び止めた。
「まだ、何か?」
振り返りもせずにシンジが問う。
「し、修学旅行の間、アスカは私が預かるから、あなた達は行って来てもいいのよ?」
「お気遣いなく。それに、もし本当に使徒が来たら心配ですからね」
「あ、あなた達はアスカを信用していないのかしら?」
「いいえ」
そこでシンジは首だけ振り返り、
「信用していないのはあなた方です」
それじゃ、と言い残してシンジたちは出て行った。
部屋の中には歯噛みするミサトだけが残された。
○○○
「修学旅行ね……このご時勢に呑気なもんだ」
「ふん! 子供のわがままに付き合ってたら世界を守ることなんてできないわよ!」
一人取り残されたミサトは、通りがかった加持を捕まえて愚痴っていた。
「わがままって……結局アスカも、シンジ君やレイちゃんだってこっちに残ってくれることになったんだろう?」
「全然納得してなかったわよ!」
憤懣やるかたない、といったミサトだが、その怒りが見当はずれということには気付いていない。
「納得してなくても、理解して残ってくれたんじゃないか……葛城は何が不満なんだ?」
「それは! この機にアスカとあいつらが仲悪くなってくれないかなって……」
言い辛いことを思わず口走ってしまい、しまった、というように自分の口を押さえる。
だが、今更遅い。
「おいおい、どういうことだ?」
「……サードとレイが外部協力者になったことは知ってんでしょ? この上アスカにまで変な入れ知恵されたらこっちはたまったもんじゃないわよ」
「まぁ、分からん訳じゃないが……」
それにしても、戦闘員の仲が悪くなることを望む指揮官に、少々呆れた様子の加持。
だが、加持はミサトの言葉に引っかかるモノを感じた。
(ふむ。入れ知恵、か。彼のやっていることは確実に司令の計画の障害になっている……彼は何かを知っているのか?)
加持も遊んでいたわけではない。その目的のため、それなりに情報収集(彼の場合、それ自体が目的ともいえるが)を行っていた。
その中で、シンジの行動に疑問を抱いていたのも事実。たかが中学生とも思うが、アスカと面識があったのも事実だし、バックに碇家がついているとなれば、彼が何かを知っているという考えにもある程度の信憑性がある。
(アスカに探りを入れてみるか……?)
いきなりシンジに直接接触するのはまずいと考え、とりあえずアスカからアプローチをかけてみようかと考える。
「ちょっと、加持! 聞いてんの!?」
「ん? おお、俺からもアスカにもう少し葛城の言うことを聞くように言っておくよ」
「ホント!? 頼むわよ」
「ああ、それじゃあな」
手を振りつつミサトに背を向ける。
もう、その頭の中は、どうやってアスカからシンジの情報を得るかでいっぱいだった。
○○○
数日の後。
「それじゃあ、アスカ、レイさん、碇君。お土産買ってくるから」
「じゃあのセンセ。しかし、今回は残念やったな」
「ねぇ、シン君。本当に私も行っていいの?」
三者三様の言葉に、
「いいよ、僕らの分まで楽しんで来てね」
「お土産忘れるんじゃないわよ!」
「……シンジ君とアスカが一緒だから、大丈夫」
とこれまた三者三様の答えを返しつつ、シンジたちは修学旅行へと旅立つクラスメイトたちを見送った。
「さて、それじゃあ早速行きましょうか!」
「ええ」
「行くってどこへ?」
「三人で遊ぶんでしょ? 最初はプールよプール。NERVの保養施設を借り切ってあるわ」
ルンルン、と擬音が聞こえてきそうな様子のアスカ。
「借り切ったって……そんなことできるの?」
「修学旅行を我慢してるのよ? それくらいのわがまま聞いてもらえるわ」
正確にはリツコと日向の口ぞえがあってのことだった。
「それじゃあ改めて、早速行くわよ!!」
○○○
三人は借り切ったプールで思う存分泳いだ。
レイは元々泳ぐのが好きなようだったし、
「水……透明なもの。冷たいもの。気持ちいいもの」
アスカは「ここでもぐるのよ」と『前史』と同じくスキューバの道具一式を準備していた。
「見て見てシンジ、レイ! バックロールエントリー!」
シンジは四年の修行でとりあえず泳げるようにはなっていたものの、得意とはいえず、三人の競争では最下位に終わり、罰ゲームとして二人にパフェをおごることになった。
その折、シンジが作ったもののほうが美味しいといわれて複雑な表情をしていた。
「おごるんじゃなくて作ってあげたほうが良かったかな?」
お金に困っているわけでもないのに貧乏性な少年であった。
なお、シンジの情報を得るためアスカをたぶらかそうとたくらんだ某不精髭だったが「飯でも食おう」と誘ったところ「シンジのご飯のほうが美味しいからいい」とあっさり振られたのであった。